AIが書類を読み、文章も作るようになると、「行政書士の仕事はAIでなくなるのでは」と感じるかもしれません。書類の下調べや定型の文章づくりは、たしかに速くできる場面が増えています。
一方で、相談する人が知りたいのは、一般的な説明だけではありません。自分の状況で何を確かめるべきか、どこに注意がいるか、任せて大丈夫かを知りたいはずです。事情を聞き、受けられる仕事かを判断し、責任を持って進め方を説明することは、行政書士自身が担う仕事です。
AIを行政書士の代わりとして考えるより、発信と事務の下準備を助ける道具として使うと、相談に使える時間を増やせます。この記事では、任せること・任せないことの分け方と、すぐ使える発信の例をまとめます。
行政書士の仕事がすぐにAIだけになる、と決めつけない
AIは、質問に対するもっともらしい文章を短時間で作れます。制度の概要を並べる、よくある質問の候補を出す、長いメモを見出しごとに整理するといった作業には役立ちます。
ただし、出力は正しいとは限りません。個別の事情を十分に踏まえた回答になるとも限りません。たとえば相続の相談では、相談者が話していない家族関係や財産の状況で、次に確認すべきことが変わります。在留資格や建設業許可でも、必要な確認事項を一般論だけで確定させることはできません。
そのため、AIが広げた選択肢をそのまま答えにせず、先生が事実を確かめ、相談者の状況を聞いて整理する流れが大切です。AIで短くできた準備の時間を、相談前の確認や説明に回せることが、事務所の強みになりえます。
AIに任せることと、行政書士が担うことを分ける
最初から難しい作業を任せる必要はありません。「公開してもよい一般情報」と「先生が確認して仕上げる部分」を分けると使いやすくなります。
| 場面 | AIに任せやすいこと | 行政書士が担うこと |
|---|---|---|
| 記事づくり | 見出し案、下書き、FAQの整理 | 根拠の確認、事務所の対応範囲、公開の判断 |
| 問い合わせ前 | フォームで聞く項目の案出し | 受任できるかの判断、相談者への説明 |
| 定型の事務 | 一般的な案内文、手順のたたき台 | 個別事情への当てはめ、最終確認、送付 |
| 情報の整理 | 匿名化したメモの分類、要約 | 個人情報の取扱い、記録の保管と利用の判断 |
AIへの指示は、「建設業許可の更新について、一般の方向けに確認したい点を5つ挙げてください」のように、個人を特定しない形から始められます。出てきた案から、事務所で実際によく聞かれるものだけを選びます。
依頼者名、住所、生年月日、在留カード番号、相続関係が分かる情報などを、手軽な相談相手のように入力するのは避けてください。行政書士法第12条は、行政書士に「正当な理由がなく、その業務上取り扱つた事項について知り得た秘密を漏らしてはならない」と定めています。[1]
個人情報保護委員会も、生成AIサービスに個人情報を含む入力をする場合、利用目的との関係や、提供事業者が機械学習に利用しないことなどを十分に確認するよう注意を示しています。[2] 使うサービスごとに利用規約、プライバシーポリシー、入力内容が学習に使われるか、保存・削除の扱いを確認してください。個別案件を扱う必要があるときは、まず所属会の運用や、事務所内の情報管理の決め方も確認します。
発信では「一般論の答え」を先に整える
AI検索が広がると、検索結果で見つかっても、必ず記事を読みに来るとは限りません。LawProのレポート第2章で紹介した海外調査にも、AIの要約が出た検索ではリンクのクリックが少なくなる傾向が示されています。ただし、日本の行政書士の検索にそのまま当てはめられる数字ではありません。[4]
ここで大切なのは、AI検索向けの特別な裏技を探すことではありません。Googleも、AIによる概要やAIモードのために追加の特別な最適化は必要なく、従来の検索の基本と、信頼できる利用者第一の内容が重要だと案内しています。[3]
記事では、1ページで1つの疑問に答えます。結論を最初に書き、対象になる人、確認すること、次にすることを続けます。制度や期限の説明には、確認した日と公的な根拠を添えます。こうした書き方なら、相談する人も自分に関係するか読み取りやすくなります。
在留資格:よくある質問を、相談前の不安に合わせて並べる
在留資格については、実際に多い質問を、相談者の言葉に近い見出しに直します。たとえば「更新と変更では、最初に何を確認しますか」「雇用する会社が先に用意するとよい情報は何ですか」「相談時に分かる範囲と、確認後に分かる範囲は何ですか」といった形です。
AIには、質問候補を重複なく並べる作業を頼めます。ただし、要件や必要書類、受付時期のように変わりうる情報は、出入国在留管理庁などの一次情報を先生が確認してから書きます。記事では個別の許可見込みを断定せず、「状況によって確認する点が変わります」と、相談で確かめる範囲を分けて伝えます。
建設業許可:更新時期を確認する案内記事にする
建設業許可では、「更新が近づいたら何を確認するか」という案内記事を用意できます。更新期限の一般的な説明だけで終えず、事務所が対応する地域、相談してほしい時期、最初に分かるとよい許可の情報を明記します。
AIは、記事の骨組みや、読者が見落としやすい確認項目の候補を作る役です。許可の有効期間、更新の手続き、必要書類などの事実は、必ず該当する行政庁の最新案内で照合します。自治体や許可の種類で違いがありうる内容を、全国共通のように書かないことも重要です。
相続:相談前に整理してもらう項目を伝える
相続の相談では、相談者に最初から書類をそろえてもらうより、何が分かれば話を始めやすいかを案内すると親切です。たとえば、次のような項目です。
- いつ、どなたが亡くなったか
- 分かっている相続人はどなたか
- 不動産、預貯金など、把握している財産があるか
- 遺言書の有無や、今いちばん困っていることは何か
これは相談の入口で状況を整理するための例です。個別の相続関係や手続きの結論を、記事やフォームだけで判断するものではありません。AIには、一般向けの説明を短く整えることを頼み、先生は必要以上の情報をフォームで集めていないか、事務所の対応範囲に合っているかを確認します。
月に2本でも、確認できる形で続ける
発信は、AIを使っても毎日続ける必要はありません。LawProのレポート第6章では、題材を実際に聞かれたことから控え、型を決め、週30分の時間を確保する方法を紹介しています。月に2〜4本でも、続ければ疑問への答えが積み上がります。[4]
まずは、今週受けた質問を個人が分からない形で3つメモしてください。その中から、何度も聞かれる一般的な質問を1つ選びます。AIに見出しと下書きを作らせ、次の4点を先生が確認して公開します。
- 制度、期限、必要書類などの事実に一次情報の根拠があるか
- 事務所が実際に対応する範囲と合っているか
- 依頼者や過去の相談者を特定できる情報が入っていないか
- 読んだ人が次に何を確認すればよいか分かるか
AIの下書きは、白紙から書き始める負担を減らします。公開に責任を持つ人の確認をなくすものではありません。この順番を決めておくと、速さと正確さを両立しやすくなります。
まとめ:AIで浮いた時間を、相談のために使う
行政書士がAIでなくなるかを、今ここで言い切ることはできません。ただ、AIが得意な下調べ、整理、定型文の下書きを使えば、発信や事務の準備は進めやすくなります。
大切なのは、AIの出力をそのまま渡さないことです。個人情報と守秘義務に注意し、事実を確認し、相談者の状況を聞いて説明する時間を残してください。まずは、よく聞かれる質問を1つ選び、個人情報を入れない形で記事の見出し案を作ることから始めましょう。
LawProは、相談ナビ・相談管理・発信の支援を通じて、相談する人が状況を整理し、先生が対応しやすい相談の仕組みづくりをお手伝いします。今の発信や相談の入口を整理したい先生は、無料サイト診断をご利用ください。
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この記事について
公開日:2026年10月25日
確かめた日:2026年10月23日
出典:
- e-Gov法令検索「行政書士法」第12条(2026年10月23日確認)
- 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」(令和5年6月2日。別添1「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」、2026年10月23日確認)
- Google Search Central「AI機能とウェブサイト」(2026年10月23日確認)
- LawPro「選ばれる士業事務所の情報発信 2026レポート」第2章・第6章(2026年10月23日確認)