開業前後は、来た相談をできるだけ受けられるように「幅広く対応」と書きたくなるものです。一方で、サイトを見た人には、自分の相談を任せられる事務所かどうかが伝わりにくくなります。
専門分野は、市場が大きそうかだけで選ぶものではありません。これまでの経験、地域で実際にある相談、単価と件数の組み合わせ、続けて学び発信できるかを比べると、無理のない軸が見つかります。決めた後は「誰の、どんな相談を、どこまで受けるか」をサイトに書きます。
これは、ほかの業務を断るという意味ではありません。まず相談者が「この先生に聞いてみよう」と判断できる入口をつくるための方法です。
行政書士の専門分野は、業務の範囲から考える
行政書士法第1条の3は、行政書士が他人の依頼を受けて報酬を得て行う業務として、官公署に提出する書類など、権利義務または事実証明に関する書類の作成を定めています。同じ条文は、他の法律で制限される業務は行えないとも定めています。[1]
日行連も、許認可等の申請書類の作成・提出手続の代理、遺言書などの権利義務・事実証明・契約書の作成などを紹介しています。[2] ただし、実際に受けることができる仕事の範囲は、扱う制度や個別の手続、ほかの法律によって異なります。
そのため「専門分野」を考えるときは、業務を広く列挙するよりも、行政書士として扱うことができる範囲を確認したうえで、相談の場面まで具体的にします。たとえば、次のような分け方があります。
| 分野の例 | 相談の場面の例 | サイトで先に決めたいこと |
|---|---|---|
| 在留資格 | 日本で働く外国人を採用したい、在留に関する手続を進めたい | 本人・雇用企業のどちらを主な対象にするか、対応する手続 |
| 建設業許可 | 新規取得、更新、業種追加を検討している | 対応地域、新規・更新などの範囲 |
| 相続・遺言 | 遺言書などの書類作成について相談したい | 対応する書類、最初の相談で確認すること |
| 会社設立 | 開業・法人化に伴う書類や許認可を整えたい | 支援する準備・手続の範囲、連携が必要になる場面 |
| 補助金 | 自社に合う公募を確認し、申請書類を準備したい | 扱う制度、支援する段階、対応時期 |
表は分野の候補であり、受任範囲を示すものではありません。会社設立や補助金も含め、何を受けるかは各制度の根拠、手続の要件、他法による制限を確認して決めます。行政書士法第1条の2が求めるように、業務に関する法令と実務に精通して行うことが前提です。[1]
「おすすめ」は人によって違う。4つの軸で候補を比べる
行政書士の専門分野に、すべての人に共通するおすすめはありません。開業前の経験や暮らす地域によって、相談の入り方も、続けやすさも変わるためです。気になる2〜3分野を次の表で比べると、感覚だけで決めにくくなります。
| 比べる軸 | 確かめること | メモの例 |
|---|---|---|
| 経験 | 前職、資格、生活経験で理解しやすい相手や業界はあるか | 建設会社での勤務経験がある |
| 地域の需要 | 地域に多い業種、人口の動き、開業する人の相談は何か | 工業団地の周辺に事業者が多い |
| 単価と件数 | 1件にかかる時間、年間に見込める件数、継続する相談はあるか | 更新の時期に相談が集中する |
| 続けやすさ | 制度を学び続けられるか、相談の相手と話しやすいか | 月に1本、質問への記事を書けそう |
まずは各欄を一言ずつ埋めてください。4つすべてが強い分野は、最初から見つからなくて構いません。「経験がある」「地域で相談を見つけやすい」「学び続けられる」のうち、二つがそろう分野から始めると、発信が止まりにくくなります。
市場の大きさは大切な材料です。しかし、件数が多そうに見えても、必要書類や制度の更新を追い続けられなければ、相談者に十分な説明をし続けることは難しくなります。反対に、前職で関わった業界や、身近な地域で繰り返し起きる手続なら、相談者の言葉や困る時期を想像しやすくなります。
先に決めるのは1〜2分野でよい
開業時に、すべての専門分野を決め切る必要はありません。サイトで最初に重点として見せるのは、1〜2分野で十分です。受任実績がまだ少ない段階なら、「専門です」と大きく言うより、「このような相談を主に受けています」「この手続について準備を支援します」と、現在の対応範囲を正確に書くほうが安心です。
たとえば建設業許可を重点にするなら、新規申請、更新、業種追加のうち、どこまでを主に受けるかを決めます。在留資格なら、外国人本人からの相談を中心にするのか、雇用する企業からの相談を中心にするのかで、必要なページや相談時に聞くことが変わります。
相続・遺言では、遺言書などの書類作成について、どのような相談を受けるのかを具体的にします。補助金なら、すべての公募を扱うと書くより、確認できる制度や対応できる時期を明らかにしたほうが、相談する人も事務所も判断しやすくなります。
サイトの重点を絞っても、掲載していない業務を直ちに断る必要はありません。問い合わせを受けたときに、受任できる範囲か、いつまでに何が必要かを確認すればよいのです。むしろ、重点分野を見せることで、最初の相談内容が整理され、対応の可否を判断しやすくなります。
サイトでは「誰の、どんな相談を、どこまで」で書く
LawProが2026年10月5日に行政書士事務所のサイト47件の主なページを分析したところ、専門分野を具体的に載せていたのは14件でした。各サイトのトップと主なページを最大5ページまで見た調査なので、ほかのページに情報があった可能性はあります。それでも、相談者が最初に見る場所で専門分野を具体的に伝える余地はあります。[3]
「許認可に対応」「相続のご相談はこちら」だけでは、相談する人は自分が対象か判断しにくいことがあります。次の3つを1文に入れると、情報が具体的になります。
- 誰の:地域、個人か事業者か、業種や立場
- どんな相談を:手続や、相談が起きる場面
- どこまで:対応する範囲、最初に確認する条件、対応地域
たとえば、次のように書けます。いずれも表現の型であり、実際には受任できる範囲に合わせて直してください。
- 「東京都内で建設業を営む事業者の、建設業許可の新規申請・更新に関する書類作成を支援します。」
- 「○○市と近隣地域で、日本で働く外国人を雇用する企業から、在留資格に関する手続のご相談を受けています。」
- 「遺言書などの書類作成について、まず状況を伺い、対応できる範囲をご案内します。」
この1文は、トップページの最初の画面、重点分野ごとのページ、問い合わせフォームの近くでそろえて使えます。分野ページには続けて、対応の流れ、相談前に分かるとよいこと、報酬の考え方を置くと、問い合わせ前の不安を減らせます。
一方で、「必ず許可が取れる」「最短で対応」のように、個別の事情によって変わる結果や期限を一律に約束する書き方は避けます。制度の要件や対応範囲が変わり得る情報には、確認した日と根拠を示します。
専門分野は、相談と発信を通じて見直す
専門分野は、一度決めたら変えられない看板ではありません。3か月ほど、届いた相談を「分野」「相談者」「時期」「質問」で記録すると、実際に地域で求められていることが見えてきます。個人が分かる内容は記録せず、傾向だけを残せば十分です。
たとえば、建設業許可の更新時期に同じ質問が重なるなら、その質問を分野ページに追加します。在留資格について雇用企業からの相談が多いなら、企業向けに必要な確認事項を整理します。相談が少ない分野も、すぐに失敗と決める必要はありません。発信を続けられるか、問い合わせが想定した相手から来ているかを見てから、重点の置き方を調整します。
まとめ:最初の1文を決めて、サイトに置く
行政書士の専門分野は、次の順番で決めると進めやすくなります。
- 業務の範囲と他法による制限を確認する
- 経験、地域の需要、単価と件数、続けやすさで候補を比べる
- 重点の1〜2分野について、「誰の、どんな相談を、どこまで」を1文にする
今日できることは、重点にしたい分野を一つ選び、その1文を下書きすることです。トップページに載せる前に、受任範囲と制度の根拠をもう一度確かめてください。
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この記事について
- 公開日:2026年10月25日
- 確かめた日:2026年10月23日
- LawProの内容分析:2026年10月5日、行政書士事務所47件のトップと主なページ(最大5ページ)を対象。サイトに専門分野の情報があるかを見た調査であり、事務所の実力や受任件数を測るものではありません。
出典
- e-Gov法令検索「行政書士法」(第1条の2・第1条の3、2026年10月23日確認)
- 日本行政書士会連合会「行政書士とは」(2026年10月23日確認)
- LawPro「選ばれる士業事務所の情報発信 2026レポート」第3章「士業サイト2,219件の実測と、47件の内容分析」、第4章「相談する人に伝えたい4つの情報」(2026年10月23日確認)